あたし

懐かしい味

週末にYが煮豆や何やらを作って持って来てくれた
いや、Yは車運転しないからDちゃんが嫌々ながら迎えに行ったんだけど

何ガキみたいな事言ってんだよ、おめぇは

もう、いつまでたっても赤ちゃんなんだから、Dちゃんったら

吐き気を伴う肩こり、偏頭痛、臀部捻挫と頭皮陰毛症に倒れたあたしのために
朝も早から部屋中を醤油臭くして流しを汚れもんで一杯にして料理してくれたY
ありがたいじゃないか
涙も出ようってもんじゃないか
何度言っても玄関ホールで靴を脱がないあほんだらお茶目なYから
タッパでもっこり膨らんだスタバの紙袋を受け取ってあたしは柄にもなくうる目
大好物の煮豆をまず味見

んまい

あー、おいしい
子供の頃食べた煮豆と同じ味
母が作ってくれた煮豆と同じあj・・・

ちょっと待ったれや

「不味い手作りよりも最初から美味しい出来合いの方がよっぽどありがたい」と
小学校の母親参観日の午後に開かれた「おかあさんのお茶会」で
のうのうと言い放ったあたしの母が豆を煮るわけがない

と言うことはYが作ってくれたこの煮豆はあたしが子供の頃より親しんで来た
ふ○っこのお豆さんシリーズと同じ味と言うことになる

「あたしの料理はそんじょそこらの出来合いなんかよりずーっと美味しいのよ」と
常日頃あたしに言って聞かせるYには口が裂けてもそんな事言えない
たとえそれがあたしにとっては最高の褒め言葉だったとしてもだ

あたしはYの期待に満ちた眼差しをでこ一杯に受けながら一生懸命考える

ちょっと俯いて、煮豆を味わうフリをしながら一生懸命考える

Yの顔がぐっと近づいて鼻息を感じるくらいになっても一生懸命考える

・・・に

に?

に・煮豆屋さん開けるよ

煮豆屋さん?

・・・うん

Yはちょっと考える

それ、褒め言葉よね?

うん

あたしはそそくさと煮豆のタッパをテーブルに置いて袋に手を突っ込み
次のタッパを取り出した

ピンクの蓋のタッパに入っていたかぼちゃの煮物は
高○屋の地下の惣菜コーナーの味がした


頭から陰毛

あたしの髪の毛は昔から太くて硬くて立派なんだけど
そこに持って来て右側頭部と後頭部の上の方に一部ちりちり毛が生えてる。
今日も夕方テレビを見ながらそこんとこを弄くってたらちりちり毛を指が捉えたんで
ちっ、と抜いたのね。

そりゃー見事なちりちり具合で、人差し指と親指で挟んでツー、とすると
ちりちりが指を通して伝わってくるのね。

得意になってこじじに「見てみて、ちりちりー」と見せびらかしたら
目を細めてちりちり具合を確認した後で、こじじはおもむろにこうほざいたね。


お前の頭には陰毛が生えるんか


それを言うなら『頭にも』でしょと言い捨ててあたしは夕飯の支度にとりかかった。
臀部よね、あそこ。
あの、ほら真ん中あたりで割れててさ、桃山になってるところ。
ケツっぺたとも言うわね、そうそう、あそこ。

捻挫したわよ。

まっくり。

あのもちもち、ぽよぽよしたお山にね、捻挫するほどの筋肉があったことが
まず信じられないんだけど、医者が笑いを堪えながら言うんだから間違いない
ケツっぺたの捻挫なのよ。

猫娘がどうしてもベッドから下りないんで諦めてそのまんまベッドを整えてたのね
で、妙な中腰でベッドカバーをふんっ!と引っ張った瞬間、来たわね

びり

と。

ぎっくり腰やっちゃった人がよく「電流が走った」て言うでしょ?
あれ、ほんとうだわ。
ちょうどローライズのジーンズのウエストラインあたりから桃山を通って
山道にさしかかるあたりまでね、うんうん、あのあたり、あそこら辺まで
電流が走ったのよ

びり

て。

ちゃんと時間計れば良かったんだけど、そんな余裕なくてね、でもたぶん
10分はその妙な中腰で固まってたと思う。
いやー、息も出来ないってほんとね。
全国の椎間板ヘルニア持ちのお父さん、ご苦労お察しいたします。
一日も早いご快復、心よりお祈り申し上げます。

それはともかく

ようやくまともに呼吸が出来るようになって、医者に電話したら
なんか腑に落ちない感じだったけど「とにかく来なさい」て言うから行ったわよ。
そしたら、医者大笑い。
こう、白い巨塔ぽい「医者は神」「医者は笑わない」じゃなくて
膝をばんばん叩いて腹抱えてわははわははするのね、このクソ医者。

なんか筋肉を弛緩させる注射してもらって帰って来たけど痛みはしばらく続くのね
で「しめしめ、こじじにケンタッキーでも買って来させよう」て電話したのね
夕飯作る気なんて、朝からなかったから
てへ
そしたらここでもまた笑われたわね
笑って笑ってまともに話せなくなったらしくてDちゃんに携帯渡したのね
電話代わったDちゃんもね、大笑いしたのね
それでも何とか「ケンタッキー買って来てね」は了解してもらえてね

あー、あたしって禍福者(うつろな目で棒読み)

それにしても、あれよ、桃山を捻挫するなんて、
あたしもまだまだ捨てたもんじゃないわねー
てへ

肩こり

もうね、コリコリとかそんな生易しいもんじゃなくてね
吐き気がするくらい痛いのよ
痛いって言うか・・・
常にそこにある「ぐわし」感?みたいな?あたし的には?

あー、あたしこう言う言葉遣い大嫌いなのね、考えたら。
よくあるじゃない、語尾をひょろっと上げて、平叙文なのに疑問文フィニッシュ
あれね、あれ

あれ、だーいっきらいなの
あれやられると全身全霊籠めて睨んじゃうの
電話口でやられた場合は相手に聞こえるように舌打ちしちゃう。

最近、でもないんだろうけど、日本で流行ってる言葉遣いってあるでしょ
週に一回はグーグルジャパンでチェックしないと付いていけないんだけど
たぶん今あたしが日本に行ったら日本語通じないんじゃないかってくらい
日本語じゃないわよ、あれ

小学校からずーっと国語得意だったからね
国語便覧とかちゃんと読んでたし
暇な時は歳時記を読んで勉強してたし
もっと暇な時には広辞苑読んでたし

だから

それくらいあたしは日本語が好きなわけで
そんなあたしにとって今の日本語はとても哀しいのね

何の話だっけ
あ、肩こりね
そうそう

肩こってねぇ・・・
どうもあの「感電死寸止め」事件が尾を引いてるとしか思えないんだけど
とにかく右肩がね、ばりばり。

肩で止まらずに右腕全部、指の先までずーん、と痺れて
氷みたいに冷たくて、サロンパス貼ったら逆効果みたいで
もう、どうしたらいいのか判らん状態なのね

こう言う時に思うのね

温泉が近所にあったらいいのにな、て

そうよ、今のあたしに必要なのは
最初はひんやり、後でじんわり、の筋肉痛用のシップなんかじゃなくて
あの硫黄臭い温泉なのよ
お湯は濁ってる方が、なんか効用がありそうに見えるわね
白湯は信用できないとか、そう言うわけじゃないけど

そう言うわけでね、今夜はこじじとDちゃんが何と言おうと
何とわめこうと泣き叫ぼうとあたしを孫子の代まで呪おうと
手持ちの「おうちで温泉!コレクション」から一番臭いのを選んで
バスタブにぶん撒いて温泉気分に浸ろうと、そう思うのね
それで極度の肩こりを理由に風呂掃除も彼らにやらせるのね

きーまりっと
・・・て言うジングル、ありましたよね。
ぜったいありましたよね。
なんか、お昼間にやってる奥様向けの番組の中で流れてましたよね。

きょおっわなっんのっひっ、ふっふぅ〜♪

あたしの記憶はもう、絶対確かなんです。
あたしは割りと記憶力がいいんです。
覚えるだけ記憶系の科目はいっつも10段階で9とか10とかでした。
それくらいあたしの記憶力はすごいんです。
世界史の教科書とか一学期分試験の前夜に読んでそんで試験受けて
98点とか余裕ぶっこいて取ってました。

そんなすごい記憶力を誇るあたしの記憶に真っ向からタイマン張って来るのが
Yです。もうアルツハイマーとか心配した方がいいんじゃないって年のYです。

何を血迷ったか上述の通りのすごい記憶力のあたしの記憶を頭から否定するのです。


そんなお囃子はやし聴いたことないわよ




あー、お囃子ね、そうね
こんなお囃子は、あたしも聴いたことないわ。
すごーい、Y、まだまだイケてるー。

あ、今更ですが
はっぴーばれんたいんでー。





いえね、横着してテレビ点けたまんま画面を拭いてたんだけど
あたしから見て左上の角っこにたまった汚れをがしがし拭いてたら
もんのすごい勢いでびりっと来たのさー

青白い火花も飛んださー

あー、びっくりした
感電死するかと思った

あわててこじじに電話したら
「くだらんことで電話すんな」と鼻であしらわれ
悔しくてDちゃんに電話したら
「こじじさんに言いつけますよ」とおどされ
(実はこの時二人は元気のないカサブランカの前に並んで立っていたらしい)
(妻があわや感電死を遂げたかも知れぬというのにこの態度)
(あたしが死んだら誰がキサマの下着を洗うんだ)
(あたしが死んだら誰がしらたまのぬんちを拾うんだ)

えぇい、腹の立つ。

腹が立ったのであたしはファミリーで親しくしているゲイカップルに電話。
ジャスティンとトニーはとてもらぶりぃなゲイカップル。
ジャスティンはトリマー、トニーはヘアスタイリスト。
猫娘のグルーミングはジャスティン、あたしのヘアカットはトニーが
それぞれ担当している。

ジャスティンの携帯に電話すると蜜のような声でジャスティンが応答
「あらー、ハニー、どうしたの?」
「感電死しそうになったのよ、なのにこじじとDちゃんは慰めてくれないの」
「ンまー、サノバビッチズねぇー」
ほーら、ジャスティンはわかってくれるでしょ?
それからしばらくハニーの、ダーリンのと甘いことばで慰めてもらって
あたしはすっかり元気になりました。

だから好きよ、ゲイって。

イク時の声

全くなーんにもしたくない朝を迎えることが多々あるぷふです。
おはようございます。

今朝はDちゃんがなかなか起きないのでしらたまのうんぬを入れたビニール袋を
鼻先でびゅんびゅん振ってみたら情けない声を出してあっさり起きてくれました。

Dちゃんはもしかしたらイク時にもあんな声を出すのかしらと思いました。
こじじに聞いたら起き抜けのはっきりしない声で「知らん」と突っぱねられて
明日の朝のしらたまのうんぬを嗅ぐのはお前だ、と密かに呪いました。

コーヒーを2杯ほど飲んでやっと頭がはっきりしたらしいこじじが
「Dがイク時の声が何たらって言ってたねー」と言い出したので
「うん」と返事したら「あいつは変な声を出すタチだな」と自信満々で言うので
「あんた聞いたことあんの?」と尋ねたら「ない」と。
どうしてこのジジィはいーかげんな事ばっかりほざくのだと睨んだら
Dちゃんがしらたまを抱っこしてその辺で踊りながら「僕は静かにイキますよぅ」と。

静かにイク男となんだかうるさくイク男、どっちが「普通」かと言うような
下らない上にお品のない議論が勃発しそうになったので
ばか二人に「続きは職場でやんなさい」と言って仕事に送り出しました。

今日帰って来たら、「で、どうだった?」と忘れずに聞くつもりです。

菅沼夫人(仮名)

テレビや映画で、出演者が何か可笑しい事を聞いて飲み物吹き出しますね
かなりイタイ演出だとあたしは常々思ぅておりましたが。
嘘っこであれだけイタイんだから現実に、己の身にそれが起こったらですね
もっとイタイです。
かなりイタイです。
実家に電話してあたしの戸籍抄本を燃してくれと、
あれはなかった事にしちゃあくれませんかのぅと、
涙ながらにすがりつきたくなります。
それくらい、イタイです。

それもこれも菅沼夫人(仮名)のせいです。

そもそも、YとTが「ブランチ行こうよ」と誘って来た時点で怪しかった。
あのYが「もう一人、来るんだけど・・・」と口篭った時点で気付くべきだった。
「第三の女」があの菅沼夫人(仮名)であると気付いた時にはもう遅すぎた。

菅沼夫人(仮名)というのは、YやTなんて足元にも及ばないツワモノである。
所謂ショーシャもんのワイフと呼ばれる、要するに現地駐在員の奥さんで
元々「すごい」カテゴリーに入るこんな感じの顔を散々弄り倒したせいで
常に浪花原人がびっくりした様な顔をしている。
Y筋の情報によると皺伸ばし手術を軽く5回はしているらしい。
もう、顔中がぱっつんぱっつんになってて下手に毛抜きでもしようもんなら
ぱっつーんと弾けて飛んでっちゃうんじゃないかってくらいぱっつんぱっつんで
あたしは常日頃、指でぱっつんしてみたいと舌なめずりをしていたのだが
いざ本物を目の前にすると食事時に指ぱっつんはまずいなと言うことで断念。

いや、あたしが水をぶはっ!としたのは顔ぱっつんのせいじゃなくて
菅沼夫人(仮名)の悪名高い言葉遣いのせい。
聞いていて耳から顎にかけて妙に突っ張ってしまう言葉遣いをするのだ。
語尾はたいてい「〜ざぁますの」「〜くてよ」「〜あそばせ」
顔ぱっつんがこう言う言葉を遣うのを聞いて冷静を保てるあたしではない。
物凄い笑い上戸のあたしは、笑い死に必至のネタがお待ちかねなのが明白、
且つ、笑っては失礼と言うような場は極力回避するよう努めているのだが
今回は逃げきれなかった。

ブランチが始まって5分後にはあたしはすでに頬がぴくぴく
笑っているのを誤魔化すためにわざとらしく咳き込む事数知れず
そんなあたしの苦労をよそに菅沼夫人はいつにも増して雄弁で
「宅が申しますには・・・」だの「そーなんざますのよ」だのとかまし続ける。
そして、あたしが水を口にがっぷりと含んだ正にその時
あたしの耳は恐ろしい言葉をキャッチしてしまった



宅の主人は胸毛がもっさりざますの


主人は・・・


胸毛が・・・


もっさり・・・


もっさり・・・


もっさりざますの・・・

慌てて手で口を押さえ、目を白黒させるあたしの耳元で
Yが埴輪みたいな顔でへ・い・じょ・う・しん、て囁いたのがとどめの一撃。

あたしはすごい勢いで水を拭き出した。

その後、優雅なブランチがどうなったかは知らない。

水びたしになったクレープのフルーツ包みは食べたくなかったし
顔ぱっつんの浪花原人の物凄い形相も怖かったから
己の不調法な様をすべて「昨夜からの風邪」のせいにして
あたしはそそくさと店を後にした。

菅沼夫人(仮名)がなぜわざわざ菅沼氏(仮名)の胸毛の濃さを引き合いに出したのか
そこんとこは誰にもわからない
あたしの覚えている限りでは胸はともかく、菅沼氏の頭はつるっパー。
きっと菅沼家では毛の話はご法度なのだろう。
そう考えれば、女同士の気のおけない(はずの)会話で亭主の唯一のふさふさ毛である
胸毛自慢をしてみたくなったのも頷ける。
哀しい女の性、とでも言おうか。(断じて言わない)



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